Akihiro Yasui
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「注文をまちがえる料理店」小国士朗さん × Aki インタビュー Part 3

「注文をまちがえる料理店」小国士朗さん × Aki インタビュー Part 3

 

(Part 2 より続き)

 

Aki: 今後はこうしたイベントをどのように発展させていくつもりですか?

 

小国:日本国内だけでなく、世界中から「自分たちの街でもやりたい」との反響をいただいたので、そういった声に対して、必要に応じてサポートしていきたいです。僕らが行った形はあくまでも一つのモデルに過ぎないので、それぞれの国や町に合ったやり方をしてもらうために可能な限り支援したいです。(注文をまちがえる料理店のロゴ=まちがえたときにてへっと笑ってぺろっと舌を出す)「てへぺろの輪」を、日本中、世界中に広がるように、色々な場所のプロジェクトを支えていきたいです。

あとは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのときに「日本には認知症の方が働いているレストランがあるんだよ」っていう「日本ってなんか気持ちがいい」「居心地がいい」という「あたたかい日本 (Warm Japan)」という発信をしていければと思っています。例えば、選手村の隣に「注文をまちがえる料理店」があって、選手達がそこで「認知症の方が働いているレストランがあって、そこでは自分の頼んだハンバーグが来ないこともあるんだけど、みんな和気藹々と楽しくご飯が食べられるんだよ」って話してたらおもしろいですよね。そういうことを東京として、日本として発信していけたら、と考えるとワクワクしてきます。

 

 

最終的には「注文をまちがえる料理店」が社会でもはや特別な存在でなくなるのがいいんじゃないかなと思います。レストランに限らず、社会のどこでもお互いにちょっとした「間違い」を受け入れられる世の中になったらもっとみんな居心地が良くなるんじゃないかと思います。例えば「てへぺろバッチ」というのを作って、それをつけている人には周りの人がもう少し寛容になって間違いを受け入れるようになってもいいと思います。そうするとどのレストランや接客の場所にいってもてへぺろバッチをつけた方が働いているので「注文をまちがえる料理店」はもはや社会で特別な存在ではなくなりますよね。

 

 

Aki: このレストランは常設する予定はないんですか?

小国:常設は今のところ考えていないですね。常設するのは大変なんですよ。今は、僕も含めて、メンバー全員がボランティアでやっていますしね。僕らは常設じゃなくて、今回のように、イベントとして年に1回やるくらいでも、気軽でいいと思っています。もちろん常設もいいと思いますし、どこかでできたら絶対おもしろいとは思いますけどね。

Aki: オランダには認知症や高齢者の方に施設内で生活してもらうのではなく、もっともっと普通に人が暮らすように街で買い物や散歩をして、一般の人と一緒に生活をしてもらおうと街づくりに取り組んでいる地域があると聞いたことがあります。そういったコミュニティーとの相性もよさそうですよね。

小国:そうですね。「注文をまちがえる料理店」っていうのはある種の象徴的な、コンセプト的な意味合いでしかないんです。当たり前ですけど、認知症にまつわる社会問題はこのレストランだけでは解決しないので、そこからハードとソフトの両面での街づくり、コミュニティー作りができたらもっといいんだと思います。

Aki: そうですよね。僕が初めてこのプロジェクトを知ったとき「これレストランじゃなくてもできるじゃん!」って思ったんですよ。やろうと思えばもっと社会の色々なところでできるんじゃないかって。

小国:その方がいいですよね。もちろん間違えが許されないところもたくさんあるので、どこでもやれるわけじゃないと思います。ハイオクなのに軽油を入れられるガソリンスタンドとかは困りますもんね(笑)でも、「このくらいの間違えなら許容できるな」「間違えてもいいな」っていうところを社会で見つけていけば、形式はレストランだってなんだっていいんですよね。

Aki: そう考えていくと、今の時代にこの「間違えても、まぁいいか」という寛容さが必要なのは何も認知症の方々だけではないと思えてきますね。僕はドイツではそんなに大きな街に住んでないので、東京に帰ってくるとみんな色々な面で効率や時間ばかりを意識しすぎていて、結果としてみんなにとって居心地の悪い場所になってしまっているように感じることがあります。そこに「お互いに間違えを許容して、そこからみんなの気持ちのいい空間を作る」ことを社会のあちこちでやっていったら、みんなでの「Warm Japan」作りになるんじゃないかと思います。

小国:9月の本オープンは東京の六本木で行ったんですが、そこにわざわざ大阪から夜行バスで来た20代の女性がいたんです。その方に来られた理由を尋ねると「ちょっとくらい間違えたっていいじゃん!」ていうコンセプトを今の社会にこういう形で表現していることが響いたって言うんです。彼女は鉄道会社で働いていて、日常的に少しでも電車が遅くなったらすぐクレームがくると。

彼女の周りでは時間も寛容さも全てがぎゅうぎゅうに押し詰められていて、そんな中でこの「注文をまちがえる料理店」を知って、効率ばかり目指して寛容さを失った社会で、生きにくそうに感じる人が、自分を含めてたくさんいる現状に疑問を持ったそうです。そういう方もお客さんとして来てくださいました。

また別のお客さんには趣味でピアノを弾いているという方もいらっしゃいました。その方は三川泰子さんのピアノの演奏を聴いたときに、(もちろん演奏にミスはあったはずですが)「こんなに強くピアノを生き甲斐にしている方に会えて感動しました」とおっしゃっていました。「認知症」と聞いて「かわいそう」ではなく、「すごい」「感動」というワードが出てくるのがいいなぁと思いました。

また別のお客さんは「オムライスを頼んだら、、、オムライスが来たんです。認知症の方もみんなが「全てがわからない」のでなく、本当にごく普通なのですね」とおっしゃっていました。

「注文をまちがえる料理店」は人によって色々な解釈の仕方ができると思うんです。現代社会に「寛容さ」を象徴する場所であったり、認知症の方とコミュニケーションが取れる場所であったり、おしゃれなデートスポットだったり、美味しい食事ができるレストランだったり。

Aki: 僕からの質問は以上ですが、最後に小国さんの方から何かありますか?

小国:逆に質問なんですが、このプロジェクトの何がこんなに海外でウケているんですかね?(笑)ドイツや欧州のメディアでももう結構取り上げられているんです。安居さんはどうして海外の人たちがこんなに興味を持ってると思いますか?

AKi: 小国さんが著書で書かれているように、ドイツでも日本は「課題先進国」のように表されることが多いんですよ。少子高齢化、エネルギー問題、食品廃棄に捕鯨を含めた海洋資源問題。その中でも特に少子高齢化は、欧州にとっても対岸の火事ではないんです。欧州にも近い将来日本社会が抱えているような問題が発生する。そういった意味で日本は今とても注目を集めているんです。だから、今回の「注文をまちがえる料理店」のようにうまい課題解決方法を日本が実践すると、それは欧州社会の将来を考える上で大きなヒントになるんです。現在「課題先進国」の日本はその課題を逆転の発想で活かしていくことで、世界をリードして「課題解決先進国」になるチャンスも大きくあると思うんです。

あとはこのプロジェクトが、誰が上で下でといった「人のヒエラルキー」のような形でなく、関わる人全てを幸せにするJoyに溢れているというのもポイントだと思います。「社会貢献」型のプロジェクトってどうしても誰が誰に「補助金」を出していて、支援活動を「してあげている」というのが多いですよね。まさに「いいことをしてるからおしゃれじゃなくても、美味しくなくても許してね。」というような。ただこのプロジェクトは、認知症の方、彼らを支える介護の専門職、お客さん、ディレクター、デザイナー、料理人、広報、グラウドファウンディングチーム、映像・写真チーム、どの分野の誰一人抜けても成立しない。そう言った意味でバランスの取れた誰にとっても平等なプロジェクトだと思うんです。みんながそれぞれの分野でワクワクしている。それも海外でも注目を集めた要因の一つだと思います。

小国:なるほど。たしかによく聞かれるんですよ。「どうして認知症の方がこんなに笑顔で生き生きと働いているんですか?」「どうしてお客さんは間違ったものが運ばれて来ているのにこんなに笑顔なんですか?」って。

Aki: 効率をキリキリまで突き詰める現代では、どうしても認知症の方とか障がい者のことを「社会的お荷物」だと思っている人が多いのが現実だと思うんですよ。そうではなく、このプロジェクトはむしろその「個性」を持った認知症の方がいなければ成り立たない。それは「支援」とは違った、認知症の方と本当の意味で共生することだと思うんです。そういったみんなで共生できる未来を誰もが欲している世の中で「注文をまちがえる料理店」はその共生の一つの可能性を示したと思うんです。それがこれだけ注目を集めた理由の一つだと思います。

小国:そうですね。認知症の方に限らず、今の世の中では一般的に「まちがえる」とか「忘れる」ということは「社会的なお荷物」や「負のコスト」と捉えられがちですよね。ただそれは裏を返すとすごく個性的な「社会的な価値」でもあるって今回のイベントをやってみて初めて気がつきました。それに気がついた時は僕も他人事にみたいに「うわぁーすげぇ!人ってこんなにキラキラするんだ!」ってなっちゃいました(笑)お客さんの顔、働いている人の顔、バックヤードにいるスタッフの顔。たしかにJoyに溢れているなって思いました。

Aki: 僕もこれまでに色々なスタートアップを取材したことがあるんですが、「注文をまちがえる料理店」ってどこから視ても隙がないプロジェクトですよね。(宮沢賢治の有名な小説を文字った)ネーミング、アイデア、デザイン、クラウドファウンディング、おしゃれさ、味、場所、広報、Web上での映像や写真の活かし方、本オープンからわずか2ヶ月での書籍化。

結構よくあるじゃないですか。いいことをしていても広報が弱いとか、スピードが遅いとか、デザインがあんまり魅力的じゃない、必要な資金が集まらないとか、もったいないなって思うプロジェクト。

小国:そう言われてみるとそうですね。そのためにも各分野の「プロ」を集めたっていうのはあります。

Aki: 報酬が発生しているわけでなくて皆さんボランティアで参加されているんですよね?

小国:そうです。みんな一円も入ってきません(笑)。僕はよく”Share issue”っていうんですけど「この指とーまれ!」っていう日本のあれ、とても大事だと思うんですよ。僕がやったことはただ「この指とーまれ!」だけなんです。まずこのプロジェクトに必要だけど自分のできないことをきちんと把握して、それからそれぞれの分野のプロに「『注文をまちがえる料理店』っていうプロジェクト、一緒にやらない?」っていう感じでみんな集まっていったんです。

僕は普段テレビ局のディレクターですし他のみんなもそれぞれの分野で活動している、めちゃくちゃ忙しい人たちばかりなので、このプロジェクトは元々短期決戦だと思ってたんです。みんなボランティアなんでダラダラできない。「ここの6月と9月にババっとやるぞ!」っていう感じで。

6月のプレオープンが終わった頃には取材も殺到して全部は受けきれなかったんです。その頃にちょうど書籍化のお話をいただいたので、本を通してこれまでのストーリーや「注文をまちがえる料理店」が大切にしているコンセプトや考え方、姿勢をきちんと書いて、取材を受けられなかった方たちに対しても、料理店に来たくても来られなかったという方に対しても、読んで頂ければエッセンスがわかってもらえるようにしました。

Aki: 各分野でプロフェッショナルとして活躍されている方々とは元々繋がりがあったんですか?

小国:うっすらと知ってる方もいましたが、「この指とーまれ!」を始めてから一人一人に声をかけ始めました。「広告ならTBWA\HAKUHODOの近山さん、クラウドファウンディングならReadyforの米良ちゃんに話ししたらおもしろいかなー」とか。そしたらみんなこの指にとまってくれたので。本当にラッキーでしたね(笑)

料理の分野は完全に新規開拓だったので一番苦戦しました。「77会」という20~40代の外食サービスの経営者の方たちが集まる勉強会に行って、26人の社長の前でプレゼンをして、一番最初に手を上げてくださったのがメゾンカイザーの木村周一郎社長でした。そこから料理チームが一気に動き出して、プレオープンはメゾンカイザーさんが持っていらっしゃるレストランで開催させてもらうことができました。

プロジェクトがいい方向に行ったのもたまたまラッキーだっただけです。みんな超一流のプロフェッショナルばかりなので求めるクオリティは超厳しかったですが、生き生きしながら進めていってくださいました。僕がしたことは6年前に和田さんのグループホームで見たハンバーグと餃子が間違えて出てきたときの「原風景」をとにかく大切にして、ディレクションをしただけなんですね。

協力してくださった方は皆さんボランティアでしたし、「注文をまちがえる料理店」のコンセプトに強く共感していただいていたところがあったと思います。この企画を始める時に、一緒にやっていく人たちは「これで儲けてやろう」とか「有名になろう」ではなく、「最後に自分を捨てられる人」でないとできないと思っていたんですが、実際にそういう人たちと一緒に、最初から最後までずーっとワクワクしながらプロジェクトを進めていくことができました。

 

 


(写真提供:森嶋夕貴(D-CORD)  *当ブログの写真は全て許可を得て使用させていただいております。無断転載は禁止でお願い致します。)

 

 

 
 
 
 


 
 
 
 
「注文をまちがえる料理店」のインタビューシリーズはひとまず完結です。『あとがき』のようなものを書こうかとも思ったのですが、小国さんがインタビューで仰っていたように「注文をまちがえる料理店」は人によって色々な解釈ができ、そこから様々なヒントが得られるプロジェクトだと思います。

 

なので、私がどうこう書くよりも、もう一度インタビューを初めから読んでいただいて、一人一人の心の中であれこれ思いを巡らせていただいた方がいいかと思いました。

 

3部に渡る長編のインタビュー企画になりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。また、貴重な時間をいただいてインタビューに答えていただいた小国士朗さん、素晴らしい写真と映像を提供していただいた森嶋夕貴さんに改めて感謝致します。「注文をまちがえる料理店」に関わった皆様の今後の御活躍をより一層楽しみに拝見させていただきます。

 

<インタビュー Part 1>

<インタビュー Part 2>

 

Akihiro Yasui

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